日常生活の注意
NMOSDでは、運動や⾷事など、日常生活の中で制限されていることはありません。
ただ、再発を引き起こしかねない感染症、過労、ストレスなどには少し注意が必要です。一方で、これらを過剰に避けて体を⼤事にし過ぎていると、⼼⾝共に弱くなってしまうかもしれません。感染症や過労に負けない体作りも求められます。
毎日の過ごし方・運動
急性増悪期の治療後に残った脱⼒やつっぱりをそのままにしておくと、その部分の筋⾁はやせ衰え、関節が固くなることもあります。また急性増悪期の治療は、入院して行われることがあります。⼊院すると運動量が減り、筋⼒や体⼒が落ちるばかりでなく、⻑い間ベッドに横になっていれば⼼肺機能も下がり、血圧の調節障害などが起こることもあります。
このような状態を「廃用症候群」といいます。NMOSDではない人にも起こり得る状態で、たとえば、けがをして何週間かギプスで固定すると、ギプスをはずした時にその部分がすっかり細くなってしまいます。その部分の筋肉を使わなかったために起こった廃用症候群の1つです。NMOSDでは廃⽤症候群がよく起こりますが、その多くは予防できます。ここではその予防のために、「急性増悪期」「回復期」「寛解期」にお勧めできる過ごし⽅を解説します。
急性増悪期の過ごし⽅
急性増悪期は治療を受けることが優先です。あせらずに⼼⾝ともにゆっくり過ごすように⼼がけますが、「絶対安静」ではありません。廃⽤症候群、そして長時間同じ姿勢でいることで起こりやすい静脈血栓塞栓症を予防するために、疲れない程度に体を動かしておくことも必要です。ほとんど動かさずにベッドにいるのではなく、動かせる部分を動かすようにしてください。
- 歩ける場合は無理のない範囲で歩く
- 立てる場合は正しい姿勢で立つ練習をする
- 座っていられる場合は、両⾜の裏をしっかり床につけて、腹筋と背筋に⼒を⼊れて座る時間を作る
- ⼿⾜を⾃力で動かせない場合は、関節が固くならないように他の⼈に動かしてもらう
回復期の過ごし⽅
急性増悪期の治療が終わって回復⼒が引き出されるこの時期は、積極的に体を動かすようにします。運動障害が残っている場合は、主治医に相談してリハビリテーションができるところを紹介してもらいましょう。
寛解期の過ごし方(運動)
病状が落ち着いたら積極的に体を動かすようにしてください。NMOSDでは運動に制限はありません。体⼒・筋⼒を落とさないために、そして健康維持のためにも運動がすすめられています。短時間の簡単な運動から始め、運動量を徐々に増やしていくようにしてください。
おへそ体操
姿勢良く⽴つか座るかして、おへそを引っ込めて10秒⽌めます。
その後楽にして、また引っ込めます。これを何度か繰り返します。

⾜の裏体操
姿勢良く座り、両⾜の裏を床に付けます。
この姿勢を維持します。

お尻体操
お尻の⽳を縮める・緩める、を繰り返します。
起⽴着席
「椅⼦から⽴ち上がり、座る」を繰り返します。
何かにつかまって⽴ち上がっても良いでしょう。
⽚⾜⽴ち
⽚⾜で1分間⽴ち、これを左右繰り返します。
何かにつかまって⽴っても良いでしょう。
食生活・サプリメント
NMOSDでは食べ物に制限はありません。ただ、症状や服⽤中の薬によっては気をつけたいことがあります。
便秘の時
NMOSD患者さんの多くが便秘に困っています。原因は様々で、排便に関わる神経が影響されることで便秘になることもありますし、薬の影響で便秘になることもあります。病気ではない⼈と同じように、運動不⾜や⾷⽣活が原因となることもあります。複数の要因が重なっている可能性もあります。対処法としては薬物療法、⾷物繊維の摂取、運動が考えられます。
ステロイド治療中の⾷事
NMOSD患者さんの多くはステロイド薬を服⽤しています。体重増加が⼤きい時は摂取カロリーに気を付けてください。
体重の増加に注意
運動量が減っている場合は特に、体重の増加に気を付けてください。食事はゆっくりと時間をかけるようにします。何かをしながら食事をするのではなく、よくかんで味わって食事を楽しんでください。目安として、1口につき20~30回かむことが勧められています。
体重が増えた場合はダイエットを考えますが、過激なダイエットは体に負担で、リバウンドする可能性もあります。ゆっくり取り組んでください。管理栄養士に相談する方法もあります。主治医に聞いてみてください。
ウートフ現象がある場合
ウートフ現象の程度は⼈それぞれで、全く出ない⼈もいれば、わずかな体温の変化でも反応する⼈がいます。鍋物やラーメンなど熱い物を⾷べただけで症状が出てくる敏感な⼈もいます。そのような場合は食べ物の温度を気にしてください。
料理中の工夫
料理中にヘトヘトに疲れたり、急にエネルギーがなくなって動けなくなったりすることがあります。体と相談しながら負担のない範囲で動き、また、疲労軽減のための工夫も検討してみてください。
飲酒・カフェイン
飲酒もカフェインの摂取も制限はありません。ただ、就寝前にコーヒーやお茶を飲むと、寝付きが悪くなったり頻尿の原因となったりするので夜は控えた方がいいでしょう。
「免疫力を高める」といわれている食材
いわゆる免疫力を高める食材として、ヨーグルトや納豆などの発酵食品、玄米や緑黄色野菜など、いろいろな食材が挙げられています。NMOSDは免疫が自身を攻撃する病気なので、そのような名目上の免疫力強化食品を取り続けることで自分を攻撃する免疫も強くなり、病気が悪くなってしまうのではと心配になるかもしれません。しかし、NMOSDは一般の食材で病気が良くなったり悪化したりするような病気ではありません。
サプリメント
健康増進をうたうさまざまなサプリメントが市販されています。まずはそのサプリメントが本当に必要かどうか、その栄養素は食事で取り入れられないかを考えてみてください。次に成分や含有量を確認し、価格も検討します。
また、薬によっては、サプリメントとの併用で効果が減弱したり、副作用が強く出たりすることがあります。サプリメントを飲む場合は、事前に主治医や薬剤師さんに相談してください。
再発関連因子
NMOSDの原因はわかりませんが、発症・再発に関係すると考えられる因⼦があります。
感染症
⾵邪などの感染症をきっかけに、NMOSDが発症・再発した事例が数多く報告されています。感染をきっかけに免疫系のバランスが崩れるからと考えられています。加えて、NMOSDで使われる予防薬は全て、感染症に対して注意が必要です。手洗い、必要に応じてマスクを着用するなど、一般的な感染対策に努めてください。
ワクチンの接種
ワクチンの接種がNMOSDの発症・再発につながったという話が聞かれます。そのような経験がある場合は、接種に当たっては注意が必要です。

精神的ストレス・過労
発症・再発時に何らかのストレスを感じていた⼈は多く、病気になったのはそのせいだと考える人は多いかもしれません。しかし、NMOSDはストレスだけで発症するような病気ではなく、原因は複雑です。ストレスはどんな病気にとっても良くないものです。解消法は人それぞれですが、⾃分に合った解消法を⾒つけ、うまく対処しましょう。
過度の⽇焼け
適度な紫外線によって新陳代謝が促進され、体内ではビタミンDが作られます。ビタミンDは骨の成育に関わっているので、適度な紫外線はステロイド薬を服用しているNMOSD患者さんには特に必要です。ただし、免疫抑制剤(国内承認外)を服用の場合は、直射日光を避けたほうが良いかもしれません。また、過度の日焼けは皮膚に炎症を起こして免疫系のバランスを崩すことがあります。真夏の海水浴で炎天下の日焼けは避けたほうが無難です。帽子や日傘、日焼け止めクリームなどで日焼けを防止しましょう。
アレルギー、異物、手術、歯科治療
アレルギーがあったり、体内に異物を入れたりすることで免疫系のバランスが崩れる可能性があります。アレルギーに関与する免疫反応とは厳密には異なりますが、NMOSDは免疫系の異常によって発症・再発すると考えられているため、少し注意が必要です。アレルギーを持っている場合はその原因物質にはなるべくさらされないようにしましょう。花粉の⾶散時期に再発が多い場合は、外出を控えたり、普段よりも多めに休息をとったりします。特定の食物アレルギーがある場合は、その食物の摂取は避けた方が無難です。抗アレルギー薬を服⽤する場合は、事前に主治医に相談しましょう。
MSキャビン. 視神経脊髄炎完全ブック第2版. MSキャビン. 2024. p. 145-177